|インド仏教史|仏教入門講座

インド仏教史序

世界の仏教諸派と、仏教の登場人物
- 2013年12月2日

1、世界の三大仏教


 スリランカ仏教系(上座部仏教、南伝仏教、パーリ仏教)

 紀元前三世紀ごろにインドからスリランカに伝わる。大交易時代に東南アジア諸王朝に広がる
• スリランカ仏教 原則大乗仏教を仏教とは認めていない。十六世紀以降植民地化によって衰退するが、タイやビルマから再び取り入れ復興。シンハラ人を主体とするシンハラ仏教ナショナリズムがタミル人(ヒンズー教徒)との内戦の主要な一因となる。在家信者は五戒を守り僧侶に布施(ダーナ)することで、来世によりよい地位に生まれ変わると信じている
• ミャンマー仏教 十二世紀に、スリランカから伝来。ビルマ仏教から生まれた在家瞑想法であるヴィパッサナー瞑想は、アメリカで広がりを見せている
• タイ仏教 スリランカ仏教がタイで主要な宗教となったのは十三世紀。精霊信仰(ピー信仰)と融和している
• カンボジア仏教 十二世紀のアンコール・ワットはヒンズー教寺院や大乗仏教寺院。十三世紀にモンゴル帝国の侵攻を受け、すべてヒンズー教に作り直される。現在は上座部仏教が憲法で国教と定められ、人口の九割以上が信徒。同時にアニミズム(精霊崇拝)も深く根付いている
• ラオス仏教 国民の六十パーセントが仏教徒、残りの四十パーセントがアニミズムやその他の宗教。仏教とアニミズムの混同が進んでいる


 中国仏教系(大乗仏教、北伝仏教)

 大乗は「大きな乗り物」の意味。インドでは主流とはならなかった
• 中国仏教 中国への仏教の伝来は、一世紀頃。五世紀には『華厳経』、『法華経』、『涅槃経』などが伝わり、東アジア特有の開祖仏教となる。六世紀には、地論宗(菩提流支)、は摂論宗(真諦)、禅宗、天台宗(智顗)、三論宗(吉蔵)、華厳宗(杜順)などが次々と生まれ、浄土教も曇鸞、道綽等によって確立される。七世紀には玄奘三蔵によって多くの経典が翻訳され、八世紀には不空が密教を大成。近世以降は禅宗と浄土教が中心。
• ベトナム仏教 部派仏教が一世紀の初めに伝来。二世紀頃に中国から大乗仏教が伝わる。四世紀ごろに禅宗が、五世紀には密教、浄土教が伝えられる。道教と儒教が一体化したベトナム仏教となる。明確な教義を持った宗派的なものはない(三教同源)。寺院に安置されている仏像も多様多種
• 韓国仏教 仏教の伝来は四世紀ごろ。三論宗、律宗、涅槃宗、円融宗、華厳宗、法性宗、法相宗、小乗宗、海東宗、神印宗など。九世紀に禅宗が伝わると、従来からの仏教と対立する。この対立から禅を取り込んだ天台宗と(上流階級)、天台・華厳を取り込んだ禅の曹渓宗(一般民衆)が生まれるが、天台宗の世俗化に反発する排仏運動が起き、儒教が仏教にとって代わる。日本統治下で僧侶の妻帯化か進む中、戦後の朝鮮仏教復興運動により妻帯僧と非妻帯僧の間で争いが起こり、現代では非妻帯僧の宗派である曹渓宗(仏教寺院の8割以上)と妻帯僧の太古宗に分かれている
• 日本仏教 仏教の伝来は六世紀。詳しくは次のページで


 チベット仏教系

 七世紀頃、ヒンドゥー教のタントラやマントラ(真言陀羅尼)を取り入れた密教(タントラ仏教)が生まれる。生きることを苦悩とし、この社会を娑婆としていた従来の仏教に対して、密教は現世の幸福を祈り、あらゆる快楽を肯定する教え。七世紀に『大日経』や『金剛頂経』などの密教経典が成立。ヒンズー教やイスラム教との対立から憤怒の形相をした明王が作られる。イスラム教の台頭により十三世紀にはインドからほぼ消滅
• チベット仏教 八世紀に密教が伝わるとチベット古来のポン教と混合し、さらに部派仏教や大乗仏教を包含して生まれた仏教
• モンゴル仏教 十三世紀ごろにチベットから伝わる
• ネパール仏教 ヒンズー教徒が八割を占めるこの国では少数派。この国独特のカースト制度のあるネワール仏教とチベット仏教をあわせても人口の一割ほど
• ブータン仏教 ほとんどがチベット仏教徒
• ロシアの仏教国
• カルムイク共和国 人口は約三十万人の内、カルムイク人(ハリマク人)は十七万。ヨーロッパ唯一の仏教国。モンゴル系の言語を話すが、民族的にはチュルク系民族といわれている
• ブリヤート共和国東 モンゴル系民族ブリヤート人の国がロシアに併合された。現在、ブリヤート共和国のブリヤート人は約三十%
• トゥヴァ共和国 チュルク系民族のトゥヴァ人の国で、二十世紀にロシアに併合された。シャーマニズムと合わさったチベット仏教


2、日本の仏教諸派


 

南都六宗

• 三論宗 元興寺・大安寺などを中心に学ばれたが衰退
• 成実宗 東大寺を中心に学ばれたが衰退
• 倶舎宗 興福寺・元興寺・東大寺などで学ばれたが法相宗に吸収された
• 法相宗 興福寺、薬師寺、法隆寺を大本山としていたが、戦後、法隆寺は聖徳宗、清水寺は北法相宗として独立。現在は興福寺、薬師寺の二本山
• 律宗系 鑑真が唐招提寺を本拠として広める。明治政府により真言宗とされるが、後に唐招提寺を本山として律宗として、西大寺を本山として真言律宗として独立。京都浄瑠璃寺もこの宗派
• 華厳宗 東大寺が本山。新薬師寺や全国の国分寺もこの宗派


平安二宗

天台法華円宗系 系列大学は大正大学
• 天台宗(山門派)本山は比叡山延暦寺。上野寛永寺、岩手中尊寺、日光山輪王寺(日光東照宮は元々このお寺の山内)、「天台三門跡」と呼ばれた三千院、青蓮院、妙法院(京都大仏で知られる方広寺や蓮華王院(三十三間堂)はこの山内)、奈良橘寺もこの派
• 天台寺門宗 本山は長等山園城寺(三井寺)
• 天台真盛宗 本山は戒光山西教寺
• 聖観音宗 本山は浅草寺
• 和宗 本山は四天王寺
• 浄土真宗遣迎院派 本山は遣迎院

真言宗系 系列大学は、高野山大学(高野山真言宗)、種智院大学(古義真言宗十四本山、新義三派)、大正大学(真言宗豊山派、智山派)、嵯峨美術大学(真言宗大覚寺派系)
• 古義真言宗系
• 東寺真言宗 本山は教王護国寺(東寺)。石山寺もこの派
• 高野山真言宗 本山は金剛峯寺。高尾神護寺もこの派
• 真言宗善通寺派 本山は善通寺
• 真言宗善通寺派 本山は随心院
• 真言宗醍醐派 本山は醍醐寺
• 真言宗御室派 本山は仁和寺
• 真言宗大覚寺派 本山は大覚寺
• 真言宗泉涌寺派 本山は泉涌寺
• 真言宗山階派 本山は勧修寺
• 信貴山真言宗 本山は朝護孫子寺
• 真言宗中山寺派 本山は中山寺
• 真言三宝宗 本山は清澄寺
• 真言宗須磨寺派 本山は須磨寺
• 新義真言宗系
• 真言宗智山派 本山は智積院
• 真言宗豊山派 本山は長谷寺。飛鳥寺、岡寺もこの派
• 新義真言宗 本山は根来寺


鎌倉仏教

浄土系
• 融通念仏宗 本山は大念仏寺
• 浄土宗 本山は知恩院。増上寺、金戒光明寺、百万遍、鎌倉光明寺もこの派。系列大学は大正大学、淑徳大学、佛教大学、京都女子大学
• 西山浄土宗系 証空の門流。系列大学は京都西山短期大学
• 西山浄土宗 本山は粟生光明寺
• 西山禅林寺派 本山は禅林寺(永観堂)
• 西山深草派 本山は誓願寺
• 浄土宗捨世派 本山は一心院
• 浄土真宗 浄土真本願寺派、真宗大谷派、真宗高田派等、十の大きな派があります
• 時宗 本山は清浄光寺(遊行寺)。野町の玉泉寺は時宗寺院
• 一向宗 現在は浄土宗。、番場蓮華寺(一向荼毘所)、佛向寺(山形県、今でも踊念仏を伝えている)はこの派

日蓮系 日蓮没後、多くの流派に分かれていったが、明治時代に日蓮宗に一本化される。現在はいくつかの流派が独立
• 日蓮宗 総本山は身延山久遠寺。主本山は妙顕寺、法華経寺、誕生寺、本圀寺、本覚寺、実相寺、本法寺、妙覚寺、立本寺、本満寺、頂妙寺、妙伝寺、清澄寺、池上本門寺など
• 法華宗系 
• 法華宗本門流 本山は光長寺(静岡県)、鷲山寺(千葉県)、本能寺(京都府)、本興寺(兵庫県)
• 法華宗陣門流 総本山は長久山本成寺(新潟県)
• 法華宗真門派 本山は本隆寺(京都)
• 顕本法華宗 本山は妙満寺(京都)
• 本門法華宗 本山は妙蓮寺(京都) 
• 富士門流
• 日蓮正宗 本山は大石寺(静岡県)
• 日蓮本宗 本山は要法寺(京都府)
• 不受布施派
• 日蓮宗不受布施派 本山は妙覚寺(岡山県)
• 不受布施日蓮講門宗 本山は本覚寺(岡山県)
• 法華神道 三十番神に対する信仰を取り入れた派。明治時代の神仏分離により衰退.

禅宗系 中国の慧能が確立した仏教
• 臨済宗 臨済義玄が立宗。栄西が日本に取り入れ白隠が確立。系列大学は花園大学
• 建仁寺派 本山は建仁寺
• 東福寺派 本山は東福寺(安国寺恵瓊はこの派)
• 建長寺派 本山は建長寺
• 円覚寺派 本山は円覚寺(神奈川県)(鈴木大拙や夏目漱石はこの派に学ぶ)
• 南禅寺派 本山は南禅寺
• 国泰寺派 本山は国泰寺(富山県)
• 大徳寺派 本山は大徳寺(一休宗純はこの派の僧)
• 向嶽寺派 本山は向嶽寺(山梨県)
• 妙心寺派 本山は妙心寺(臨済宗最大派。白隠慧鶴はこの派の僧、龍安寺はこの派)
• 天龍寺派 本山は天龍寺
• 永源寺派 本山は永源寺(滋賀県)
• 方広寺派 本山は方広寺(静岡県)
• 相国寺派 本山は相国寺(鹿苑寺(金閣寺)・慈照寺(銀閣寺)はこの派)
• 佛通寺派 本山は佛通寺(広島県)
• 興聖寺派 本山は興聖寺(京都府)
• 曹洞宗 一宗一派となっているが永平寺派と總持寺派に分かれている。系列大学は、永平寺系の駒澤大学と東北福祉大学、總持寺派の愛知学院大学と鶴見大学
• 黄檗宗 本山は黄檗山萬福寺。明治政府により臨済宗黄檗派とされるが、現在は独立
• 日本達磨宗 大日房能忍が興した禅の一派。現在は他の禅宗に吸収されている。所縁の寺院は波著寺(福井)や三宝寺(大阪)
• 普化宗 金龍山梅林院一月寺を本山とする金先派や廓嶺山虚空院鈴法寺を総本山とする流派があったが、明治政府により解体。一月寺は日蓮正宗の寺院、鈴法寺は廃寺となった。現在は普化正宗として明暗寺が再興している


修験系(修験道、修験宗) 仏教と神道、陰陽道が山岳信仰と融合した宗派。役行者を祖師とする。明治時代に禁止された

• 当山派 本寺は三宝院(醍醐寺)。真言宗系の修験道の一派。金峯山及び大峯山を拠点とした。明治時代の修験宗廃止令によって真言宗となる
• 本山派 本寺は聖護院。天台宗系の修験道の一派。熊野三山を拠点とした。修験道廃止令によって天台宗となったが、戦後に本山修験宗として独立
• 金峯山修験本宗 総本山は金峯山寺。戦後独立
• 羽黒山修験本宗 本山は荒沢寺(山形県)。戦後独立
• その他 
• 日光修験   輪王寺、中禅寺、日光二荒山神社の協力で復活
• 高尾山修験道 真言系智山派の高尾山薬王院有喜寺が復活
• 犬鳴山修験道 真言宗犬鳴派の七宝瀧寺(大阪府)が修験道を復活

3、仏教の登場人物


 1. 仏、如来(如去) 仏とは目覚めた人、如来とは真実から来た者、如去とは真実に帰る者の意味で、全く同じ対象に使われる
• 釈迦仏 歴史上実際に存在した人物で、本名はガウタマ・シッダールタ(ゴータマ・シッダッタ)。仏教の祖とされる。歴史上の釈迦と物語上の釈迦を分けて考える必要がある
• 過去七仏 仏教初期から語られている釈迦以前にいたとされる仏。釈迦の悟りが時代や地域を越えて普遍的なものであることを表しているとされる
• 阿弥陀仏など 大乗仏教の経典に登場する仏。大乗仏教の教えを分かりやすく普遍的なものにするためにあらわされた仏。他に薬師如来や、大日如来などの多くの如来が経典に説かれている

2. 菩薩  菩薩とは悟りを求める者という意味で、一般には仏になる前の修行者のこと
• 釈迦菩薩 悟りを開く前の釈迦
• 竜樹菩薩など 大乗仏教の初期に登場する実在の人物。他に天親菩薩など。
• 観世音菩薩など 大乗仏教の経典に登場する菩薩。阿弥陀仏などと同じく大乗の教えを表すために説かれた菩薩。他に文殊菩薩、普賢菩薩、勢至菩薩、弥勒菩薩等

3. 阿羅漢 尊敬や施しを受けるに相応しい者という意味。初期仏教では修行者の最高位の者に対しする呼称として使われた。大乗仏教では釈迦の直弟子たちを阿羅漢と呼ぶが、特に仏法を護持することを誓った十六人の弟子を十六羅漢、第一回の仏典結集に集まった五百人の弟子を五百羅漢と称する

4. 天(神) インド神話の神。釈迦仏説法を促したとされる梵天や帝釈天(最強神インドラ)、吉祥天(維持神ヴィシュヌの妃ラクシュミー)、水天(イランから伝わる水の神。「天之水分神・国之水分神」(あめのみくまりのかみ・くにのみくまりのかみ)と習合し「みくまり」が「みこもり」となり安産の神様に)、大自在天(破壊神シヴァ)、弁才天(川の女神サラスヴァティー。才の字が財に)などが知られている

5. 明王 密教経典に登場する仏教オリジナルの天(神)。インドの神々を退けるために武器を持ったり恐ろしい形相をしたりしていることが一般的。不動明王、愛染明王、最強とされる降三世明王、孔雀明王など

6. 夜叉 インド神話に登場する鬼神の総称。人を食うこともある反面、人間に恩恵をもたらす存在とも考えられていた。バラモン教の精舎の前門に一対の夜叉像を置いていたのが日本に伝わり金剛力士像や獅子狛犬になる。鬼子母神や、稲荷神社の荼枳尼天、子供の無病息災を願ってつける「あぐり」も夜叉

7. 龍 古代インドで信仰されていた大蛇(ナーガ)のこと
• 八大龍王 『法華経』(序品)では、霊鷲山で十六羅漢、諸天、諸菩薩と共に、水中の主である八大竜王も幾千万億の眷属の竜達とともに釈迦の教えに耳を傾けたと説かれている
1. 難陀(ナンダ) 難陀と跋難陀は兄弟で娑伽羅(サーガラ:大海)と戦ったとされる
2. 跋難陀(ウパナンダ) 難陀の弟。難陀と共にマガダ国を保護して飢饉を救い、また釈迦の降生の時、雨を降らして清めたとされる。また釈迦の説法に必ず参加し、釈迦入滅後は仏法を守護した
3. 娑伽羅(サーガラ) 龍宮の王。大海竜王。この竜王の第三王女が「善女(如)龍王」で日本では清瀧権現とも呼ばれている
4. 和修吉(ヴァースキ) 「九頭竜王」、「九頭龍大神」。須弥山を守り細竜を食す
5. 徳叉迦(タクシャカ) この龍の怒りをかい凝視された者は息絶える。「七面天女」は、この竜王の娘
6. 阿那婆達多(アナヴァタプタ) ヒマラヤの北にあるという池に住み、この池の四方から流れ出る大河が人間の住む大陸(閻浮提)を潤している。この竜王は菩薩の化身ともされている
7. 摩那斯(マナスヴィン) 阿修羅が海水で喜見城を沈めた時、身を踊らせて海水を押し戻したという
8. 優鉢羅(ウッパラカ) 青蓮華が咲く池に住む。インドでは青睡蓮は美しい眼に喩えられ、仏教では仏陀の眼は紺青色とされている
• ムチャリンダ ある時、ブッダはとある菩提樹の木の下で瞑想をしたが、そこにはムチャリンダが棲んでいた。 ムチャリンダはブッダの偉大さに気づき、静かに見守り続けた。 やがて激しい嵐が起こると、ムチャリンダは自らの体を七回巻きにブッダに巻きつけ、 約七日間に渡り雨風から守り続けた。 その後、人間の姿になり、ブッダに帰依したといわれる。日本では禅宗系の法堂の天井絵に数多く描かれている

8・ その他 阿修羅、迦楼羅、餓鬼、羅刹 など






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