8、阿鼻地獄(無間地獄)・・殺生、窃盗、邪淫、飲酒、妄語、邪見、犯持戒人、五逆・誹謗正法の罪
大焦熱地獄の下にある地獄で、欲界の底辺になります。ここに落ちる罪人は、中陰にいる時に泣き叫びながら「そこには火炎に満たされている。空中にも炎が満ちていて隙間さえない。あらゆる方角も炎が及んでいて燃えていない地面はどこにもない。その地面には悪人が溢れている。私にはすでに帰るべきところもなく、孤独で共に歩んでくれる者もいない。この地獄の闇の中で巨大な火柱の中に入るしかない。この炎しかない世界の中で、太陽や月や星さえ見ることができない。」と嘆くのです。これを聞いて閻羅人は瞋怒の心を込めて「お前はこれから八百万年以上もこの火炎に身を焼かれるのである。無知なるお前はすでに罪を作ってしまったのだ。今さら悔い改めてもどうすることもできない。これは、天や修羅や健達婆や竜や鬼がお前に罪を作らせたのではない。自らが行った悪業の網に捕らわれただけなのである。誰もお前を救うことなどできない。お前がいま受けている苦しみは大海の水のひとすくいでしかない。これから大海の苦しみすべてを受けることになる。」と叱責します。
これを聞き終わってから地獄に向かいます。途中、まだ地獄まで二万五千由旬も離れているところから地獄の泣き叫ぶ声が聞こえ始め、恐怖は十倍に膨れ上がり悶絶してしまうのです。頭を下にして二千年落ち続けてようやく地獄に到着します(『正法念経』からの引用です)。
この地獄の広さは、縦横ともに上の七つの地獄の八倍の八万由旬もあります。さらに七重の鉄城で囲まれ七層の鉄網で覆われています。網の下には十八の壁があり刀林に囲まれています。四隅には四匹の銅犬がいます。その大きさは四十由旬にも及びます。眼は雷のように血走り、牙は剣のように突き出し、歯は刀の山のようで、舌は鉄刺のようです。すべての毛穴からは炎が噴き出さしており、そこから漂う悪臭はこの世の中に例えるものがありません。さらにそこには十八人の獄卒がいます。頭の形は人食い鬼である羅刹のように恐ろしく、口は夜叉のように裂けています。眼は六十四もあり、そこから鉄の球が飛び出してきます。反り返った牙は四由旬もの長さがあります。牙の先端からは火が噴き出しており地獄を満たしています。頭の上に八つの牛頭があり、それぞれの牛頭に十八の角があります。その角すべてから猛火が噴き出ています。
また、七重の城の中に七つの鉄幢があります。幢の先端からは煮えたぎった泉のように炎が躍り出て城内に流れ込み、中を炎で溢れさせています。四つの門の上には八十の釜があり煮えたぎった銅がそこから湧き出て城内を満たしています。それぞれの壁の間には八万四千の鉄で出来た蟒蛇や大蛇がいて、毒や火を噴きながら城内を埋め尽くしています。蟒蛇や大蛇の叫び声は百千の雷のようで、大きな鉄の球を雨のように城内に降らせるのです。さらに五百億もの虫が飛び回っており、その虫には八万四千の嘴があります。すべての嘴からは火が流れ出ており、雨のように降り注いできます。この虫が地面に降りてくると地獄の火はさらに激しさを増し、八万四千由旬の広さが明るく照らし出されるほどです。八万億千にわたるすべての苦がすべてこの中に集まっているのです(『観仏三昧経』からの引用です)。
また『瑜伽論』の第四章には次の様に説かれています。東方に数百由旬離れた三熱大鉄地という燃え盛る大地から焔が吹き込んできて、この地獄の罪人を襲います。皮は破れ肉を燃やし、筋を切って骨を砕いて髄にまで至ります。それはまるでろうそくが燃えるかのようです。このように全身がことごとく炎に包まれるのです。東だけではなく、南からも西からも北からも同じように焔が吹き込んでくるのです。ですから、この地獄に落ちた罪人は常に猛焔に包まれており、ただ四方から火柱が襲い掛かって来るのを見つめるしかありません。四方からの焔は間断なく襲い掛かり罪人が受ける苦痛も絶えることがありません。苦痛のあまりあげる叫び声が聞こえるので、そこに人がいると知ることができるのです。
また鉄の箕(み)に三熱の鉄炭を山盛りにして罪人を炙ります。また、熱した鉄の地面に罪人を置き、熱した鉄の山に登らせます。登ると下らせ、また登らせるのです。また、罪人の口から舌を出させ、百の鉄釘で牛の皮を張るように皴がないほどに張り広げます。さらに、熱せられた鉄の上に仰向きに寝かせ、熱した鉗子で口を開かせ三熱を帯びた鉄の球を入れます。すると、口から喉を焼きさらに内臓を焼いて肛門から出てくるのです(『瑜伽論』からの引用です)。前の七つの地獄とその周りの十六の小地獄すべの苦しみを合わせた千倍以上の苦しみを受けるのです。この地獄に落ちた罪人からみれば、大焦熱地獄の罪人は他化自在天で優雅に暮らしているようにしかみえません。
地上世界や欲界の六天の者がこの地獄の臭いをかぐだけで消えてしまうほどです。それほどこの地獄にいる罪人はひどい匂いを放っているのです。この匂いがこちらに届かないのは、出山と没山という二つの大山が遮っているからです。もし人がこの地獄のすべての苦しみを聞くならば、誰もが耐えることができません。もし聞くことがあれば命を失ってしまうでしょう。ですからこの地獄の様子は千分の一も説明することができません。説明することも聞くことも例えることもできません。もし仮に説く人がいてそれを聞く人がいたならば、その人は血を吐いて死んでしまいます(『正法念経』からの引用です)。
この地獄に落ちた罪人の寿命は、一中劫といわれます(『倶舎論』によります)。これは、人間世界の六千四百年を一日として六万四千年をさらに一日とした六万四千歳で、これを人の年月に直すと三百四十九京二千四百十三兆四千億年になります。また、別の経典では人の八千年を一日として八万年をさらに一日とした八万歳で、これを人間世界の年月に直すと六百八十二京千百二十億年になるとあります。五逆罪を犯し、因果の道理を否定し、大乗を誹謗し、四つの戒律を犯しながらも、信者からの施しを受けた者がこの地獄に落ちます(『観仏三昧経』からの引用です)。
阿鼻地獄に付随する小地獄には次の様なものがあります。
鉄野干食処という地獄には、罪人の身体の上に十由旬の高さの炎が上がっています。すべての地獄の中でこれが最も苦しいものです。さらに、レンガのような大きさの鉄が夏の夕立のような激しさで降って来て、まるで干し肉のように身体中がちぎれてしまいます。炎の牙をもった狐が来て、その肉に食らいつき、一時として苦しみが止むことはありません。仏像や僧侶の住まいや僧侶の寝床を焼き払ったものがこの地獄に落ちます。
黒肚処(こくとしょ)という地獄もあります。この地獄に落ちた罪人は、あまりの飢えとのどの渇きに耐えられず、自らの身体を食らうのです。自分で自分を食らい尽くすと生まれ変わり、また自らを食らい始めるのです。黒い腹をした大蛇がいて罪人に巻き付くと、足の先から飲み込んでいきます。あるいは、猛火に入れて焼き、あるいは、鉄釜に入れて煎じて煮込まれてしまいます。無量億年の間このような苦を受け続けるのです。仏前に供えられた供物や仏具を盗んだものがこの地獄に落ちます。
雨山聚処という地獄もあります。一由旬もの高さの鉄山が空から落ちてきて罪人をまるで砂の塊のように押しつぶします。粉々になると生まれ変わり、また押しつぶされるのです。また、十一もの火焔が罪人を囲んで焼き尽くします。また、獄卒が刀で身体を切り刻み、熱せられて融けた鉛をその傷に流し込みます。四百四種類の病気もこの地獄に溢れています。これらの苦しみを受ける年月はあまりにも長く数えることができません。縁覚の食事を奪い、他人に与えることなく自分で食べてしまった者が落ちる地獄です。
閻婆度処という地獄もあります。そこには閻婆という象のように巨大な恐ろしい鳥がいます。嘴は鋭く炎を吐きます。罪人を捕まえると空高く舞い上がり、飛び回ってから罪人を放ちます。すると石が砕けるように粉々になってしまいます。するとまた生まれ変わり、再び鳥に捕まるのです。また、鋭い刃が道いっぱいに並んでいるところを歩かされ、足がボロボロになってしまいます。そこに炎の歯を持った犬がやって来て身体を食べてしまうのです。これが果てしなく長い間続き大きな苦しみを受けるのです。人が利用している河を堰き止めて、渇死させた者がこの地獄に落ちます(『『瑜伽論』と『倶舎論』からの引用です。一つ一つの地獄の四門の外に、それぞれ四つの小地獄がありますから、合わせると十六になります。正法念経』に説かれている八大地獄とそれぞれの十六小地獄とは名前やその様子が異なっています)。
これ以外に、頞部陀地獄などの八寒地獄があります。経論に詳しく説かれていますが、これをいまここで説明する余裕がありません。
